Photo: 台湾Taipei101前 | 2025年11月30日 PM 18:45 | 気温20℃
1. はじめに
賃貸経営において「家賃滞納」は、収益の安定性を揺るがす最も大きなリスクのひとつです。
特に日本と台湾では、法律・契約慣習・リスクヘッジ手段が異なるため、各国の仕組みに沿った適切な運用が求められます。
本稿では、最新の市場データをもとに、両国の滞納リスクと実務的な解決策を整理し、安定した賃貸運営を実現するための管理手法をご紹介します。
2. 日本の賃貸市場における滞納リスクと対策
2-1 滞納の実態と市場の変化
⽇本では、ここ10年ほどで滞納リスクと構造的背景家賃保証会社の利⽤が急速に拡⼤しました。公益財団法⼈⽇本賃貸住宅管理協会の調査では、2016年時点で賃貸借契約の約68.7%で何らかの賃貸市場リスク対策家賃債務保証が利⽤されており、国⼟交通省の資料では2021年には約8割の契約で保証会社が利⽤されているとされています。
家賃滞納率については、LICC(家賃滞納情報機関)の⼤規模調査で、全体としては概ね3%前後と報告されています。ただし、
・地域
・物件グレード
・⼊居者属性(単⾝‧ファミリー‧職種など)
によってばらつきがあり、1~2%程度に抑えられている物件もあれば、それ以上に⾼まるケースもあるのが実情です。
新型コロナウイルス感染症拡⼤期には、失業や収⼊減に伴う滞納‧分割相談が増え、多くの管理会社が「滞納‧減額交渉の案件が増えた 」と回答しています。その経験から、
・初期段階の対応スピード
・返済計画の明確化
・記録の残し⽅
が、従来以上に重視されるようになりました。
2-2 日本で効果的とされる滞納対策
① 家賃保証会社の活用(最も標準的な手法)
保証会社が未払い分を⽴替えるため、オーナー様のキャッシュフローが守られるという⼤きなメリットがあります。単⾝者‧転職直後‧フリーランス‧外国籍など多様な⼊居者が増える⽇本では、今や保証会社なしでの運営は例外的と⾔ってよい状況です。
② 返済計画を「書⾯化」して紛争を防⽌
「払うつもりはある」といった⼝頭でのやりとりだけでは、法的な意味合いも弱く、誤解や感情的対⽴を⽣みやすくなります。
・⽀払い期⽇
・⽀払回数‧⾦額
・遅延時の取扱い
などを合意のうえで書⾯化することで、後の紛争リスクを⼤きく下げることができます。
③ 早期督促と記録保全の徹底
家賃滞納は、最初の1~2週間が最も回収しやすいと⾔われます。
電話‧メール‧書⾯通知などの履歴を残しながら、段階的な督促を進めることがポイントです。「いつ‧誰が‧どのような内容で連絡したか」を管理会社側で⼀元的に記録しておくことで、
・保証会社への報告
・法的⼿続きへの移⾏
・オーナー様への説明
がスムーズになります。
④ 契約書に明確な解除要件を設定
「2か月連続で滞納した場合は解除」「一定期間未納が継続した場合、明け渡し請求を行う」など、解除要件特約として明文化しておくことで、
・抑止力の向上
・紛争時の判断基準の明確化
につながります。
3. 台湾の賃貸市場における滞納リスクと対応
3-1 台湾賃貸の特徴
・保証金(敷金)は 家賃2か月分が一般的
・礼金文化はほぼ存在しない
・契約期間は 1〜2年の固定契約が主流
・退去時、滞納や物件損傷がなければ保証金は全額返還
・保証会社の文化は薄く、保証金+保証人でリスク管理
保証金が厚いため、滞納が発生した際のオーナー側の実損リスクをある程度カバーできます。
3-2 台湾での滞納発生時の実務対応
①「2か月滞納で契約解除」が一般的運用
台湾の民法および標準的な賃貸契約では、2か月以上の家賃滞納がある場合、貸主は契約解除を行えるとされるケースが多く見られます。
実務でも、契約書に「2か⽉連続未払いの場合、貸主は契約を解除できる」と明記されている例が⼀般的です。
② 未払いは保証金から控除し、残額を返金
未払い家賃・修繕費・クリーニング費・未精算の光熱費などを差し引き、残額を返金する運用が一般的です。
この点は、⽇本の敷⾦精算と似ていますが、「保証⾦2か⽉分」という天井が法律で明確なため、オーナー‧⼊居者双⽅にとって予⾒可能性が⾼いと⾔えます。
③ 保証人(緊急連絡先)制度の活用
家賃保証会社を利用しない分、保証人をどう確保するかがリスク管理のポイントとなります。
・台湾人保証人の有無
・勤務先・家族等の緊急連絡先
・支払能力・信用
などを総合的に確認し、「敷金+保証人」で滞納発生時の交渉・回収の確度を高めるのが一般的です。
4. ⽇本と台湾の⽐較から⾒える「管理⼿法の最適化」
両国の違いを整理すると、どこを標準化し、どこをローカル対応とするべきかが⾒えてきます。
| 観点 | 日本 | 台湾 |
|---|---|---|
| 主要なリスクヘッジ | 家賃保証会社+連帯保証人 | 保証金(最大2か月)+保証人 |
| 滞納時の初期対応 | 督促・交渉・返済計画の書面化 | 契約通りの督促 → 一定期間で解除・保証金で清算 |
| 契約文化 | 法的プロセスが丁寧で時間を要する | 条項が明確で、運用は比較的スピーディー |
| 支払遅延への許容度 | 比較的「猶予」を重視(分割・調整に柔軟) | 契約条件通りの運用を重視(厳しめ) |
| 管理会社の役割 | 督促・保証会社連携・オーナー調整 | 契約運用・督促・保証金精算が中心 |
4-1 ⽇本に向く対策
・家賃保証会社の積極的な活⽤
・滞納発⽣時の返済計画‧合意内容の書⾯化
・初動(12週間)の督促プロセスの標準化
4-2 台湾に向く対策
・契約条項(滞納‧解除‧修繕‧原状回復)の明確化
・法律の範囲内での適切な保証⾦設定
・台湾⼈保証⼈‧緊急連絡先の確認と記録
両国に共通する最重要ポイントは、
「契約内容の明確化」+「初期対応の質」
この2点をどこまで標準化‧⾒える化できるかが、国を問わず安定した賃貸運営の鍵となります。
5. 不動産管理会社として重視すべき運用ポイント
5-1 契約段階でのリスクチェックの標準化
・保証⾦の⾦額
・保証会社の利⽤有無(⽇本)
・保証⼈‧緊急連絡先(台湾を含む海外物件)
など、国をまたいでも共通にチェックすべき項⽬をフロー化しておくことで、⼊居後のリスクを⼤幅に軽減できます。
5-2 滞納時のプロセスを可視化
契約書および社内マニュアルには、あらかじめ
・督促⽅法(電話‧メール‧書⾯‧内容証明など)
・契約解除要件‧タイムライン
・明け渡し‧敷⾦精算のプロセス
を整理しておくことが重要です。
オーナー様には「もし滞納が発⽣した場合、何がどこまで⾃動的に動くのか」を事前にお伝えできると、信頼感と安⼼感が⼤きく変わります。
5-3 国ごとの制度に応じた管理ガイドラインの整備
⽇台双⽅で物件を保有されるオーナー様にとって、
・⽇本:保証会社中⼼のリスクヘッジ
・台湾:保証⾦‧保証⼈‧契約条項中⼼のリスクヘッジ
といった制度差を理解したうえで運⽤してくれる管理会社の存在は、⼤きな付加価値となります。
5-4 早期発見・早期対応の徹底
滞納は初期段階こそ最もコントロールが容易です。
当社では小さな兆候も見逃さないモニタリング体制を構築し、オーナー様の資産が安心して運用される環境づくりを支援しています。
6. おわりに
日本と台湾の賃貸市場は、制度や文化が大きく異なるものの、「明確な契約」と「初期対応の精度」が安定した賃貸運営の鍵であるという点は共通しています。
当社は、国内外の制度や商慣習を踏まえ、オーナー様の資産価値を長期的に守るための総合的な管理サポートを提供しております。
日本・台湾の両方で賃貸運用を検討されているオーナー様、また、海外物件のリスク管理に不安をお持ちの方も、どうぞお気軽にご相談ください。
